フランチャイズ・システムと優越的地位の濫用(1)

フランチャイズ本部の方から、独占禁止法関連で受ける相談のうち、価格や取引条件の拘束とともに多いのが、優越的地位の濫用に関するものです。
そこで、今回は、2回に分けて、フランチャイズ・システムにおける優越的な地位の濫用について考えてみたいと思います。

 

目次

1.優越的な地位とは

(1)ガイドラインの考え方

優越的地位の濫用を考えるにあたっては、まず、優越的な地位とは何かを理解しなければなりません。
この優越的な地位について、フランチャイズ・ガイドライン(http://www.jftc.go.jp/dk/franchise.html以下「ガイドライン」といいます)では、

「フランチャイズ・システムにおける本部と加盟者との取引において、本部が取引上優越した地位にある場合とは、加盟者にとって本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合である」

とされています。

本来、取引の相手方(仮に「甲」とします)から色々な要請があっても、それを承諾するか否かは、要請を受けた側(仮に「乙」とします)の自由ですから(嫌ならば断るか、他の取引先を探せばよいだけだからです)、敢えて独占禁止法上の問題にする必要はないはずです。
ところが、甲の要請を断って取引を打ち切られたりしたら自分の商売が成り立たないという場合、乙に断る自由があるとはいえない場合も考えられます。
そのような場合、甲が乙に対して「優越的な地位」にあるといいます。

これをフランチャイズ・システムにおいてみるとどうでしょうか。
ガイドラインでは、

「その判断に当たっては、加盟者の本部に対する取引依存度(本部による経営指導等への依存度、商品及び原材料等の本部又は本部推奨先からの仕入割合等)、本部の市場における地位、加盟者の取引先の変更可能性(初期投資の額、中途解約権の有無及びその内容、違約金の有無及びその金額、契約期間等)、本部及び加盟者間の事業規模の格差等を総合的に考慮する」

としております。
もっとも、上記のような趣旨からすれば、「加盟者の取引先の変更可能性」が最も重要であり、他はこれを判断する際の要素になるといってよいでしょう。

(2)加盟者は本部を乗り換えられるか?

それでは加盟者は、ある本部から別の本部に乗り換える(あるいは単に取引を打ち切る)ことがどの程度容易なのでしょうか。
これについては、なかなか一概にはいいにくいですが、個人のフランチャイジーを念頭に置きますと、相応の初期投資額がかかり、フランチャイズ契約の中途解約権がなく(あっても高額の違約金が課せられる)、契約期間が長い場合、通常、フランチャイジーの側に本部を変更する(あるいは単にフランチャイズ契約を解約する)ことが容易であるとは言いにくいと思います。

とすると、長期間加盟者を拘束するフランチャイズ契約の場合、フランチャイザーがフランチャイジーに対して優越的な地位にあるということが多くなりそうです(むしろ、ほとんどの場合該当しそうです)。

(3)フランチャイザーはどのようにして優越的な地位を「濫用」するのか

しかしながら、では、実際にどのような形でそれが行使(濫用)されるのかということを考えてみると、もう少し問題は複雑です。
取引先を容易に変更できないことが、直ちに相手方の要請が自己にとって著しく不利益であってもそれを断ることができないとはいえないからです。
フランチャイザーがフランチャイジーに対して、何か不利益になるようなことを要請する場合(例えばロイヤルティの増額を要請する場合など)を考えてみましょう。

加盟者がこれを断った場合、フランチャイザーの側は、取引の継続を困難にするための手段として何が考えられるでしょうか。
フランチャイズ契約の解約を示唆する、本部からの商品をストップする、スーパーバイザーの派遣をしない、使用を許諾した標章を使わせない、といったことでしょうか。

しかしながら、フランチャイズ契約は、フランチャイザーとフランチャイジーの権利義務について詳細に規定しており、フランチャイザーの側から一方的にフランチャイズ契約を解約することは通常できませんし、商品の供給やスーパーバイザーの派遣、標章の使用許諾などは、契約上フランチャイザーの義務として規定されておりますから、フランチャイザーの側のオプションは、実はそれほど多くないと考えられます。

このような場合、フランチャイズ契約の期間の長さは、かえってフランチャイジーの地位の強化につながっているとさえいえるでしょう。

なお、時々、フランチャイズ契約において、フランチャイザーの側から無条件で(ノーペナルティで)契約を解除しうるとする(余り望ましくない)条項が規定されていることがあります。

民法上、このような条項がそのままの効力を持つとはいえないため、これをもって直ちにフランチャイザーの優越的な地位を根拠付けるとはいえないと思いますが、場合によっては、それを判断する際の要素にはなり得ると思います。

2.「優越的な地位」の問題か「濫用」の問題か

優越的地位にある者が、正常な商慣習に照らして不当にそれを行使(濫用)すると独禁法に違反することになります。
この「濫用」の行為に該当するのは、法律(独禁法2条9項5号)で定められた行為、すなわち、以下の行為を行うことです。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

1.で検討したフランチャイザーの行為は、「優越的な地位」の問題なのか、その「濫用」の問題なのかは、検討しておく必要があると思います。
「優越的な地位」は、実際に行使できるかどうかは別にして、取引の継続が困難になれば相手方が困ると一応いえる場合に認められるとすれば、実際の行為について、それを「濫用」したかどうかを検討するということになります。

一方、取引の継続が困難になれば相手方が困るといっても、実際にその継続を困難にする手段がないような場合については、そもそも「優越的な地位」には該当しない、とすれば、行為については検討する必要がないことになります。

私見では、実質的に見て取引を困難にし得るような地位にない場合まで「優越的な地位」とする必要はないと思いますが、公正取引委員会は、次回検討する事例を見ると、前者の立場に立っているようです。

 

鈴木 伸佳弁護士

投稿者プロフィール

鈴木伸佳法律事務所 代表/弁護士(東京弁護士会所属)
通常の民商事件に加え、本部の側からフランチャイズ・システムに関する様々な問題を 扱う。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会 研究会員/講師
1965年生まれ 東京大学法学部卒
https://n-suzukilaw.jp/

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